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大阪地方裁判所 昭和23年(行)121号 判決

原告 木下平吉

被告 国・大阪市城東区農業委員会

一、主  文

原告の訴を却下する。

訴訟費用は被告等の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は「大阪市城東区農地委員会が、大阪市城東区永田町西一丁目一七番地田一反五畝一〇歩についてなした買収計画およびこれに基く政府の買収を無効とする。被告等は、右の買収計画、その公告、これに対する原告の異議申立を却下した決定、右買収計画の承認および右買収計画以後これに基因する各行政処分の無効なることを確認すべし。訴訟費用は被告等の負担とする。」との判決をもとめ、その請求の原因として、つぎの通り述べた。

「大阪市城東区農地委員会(以下被告委員会とよぶ)は、原告の所有する請求の趣旨第一項記載の土地(以下本件土地とよぶ)について、自作農創設特別措置法(以下自作法とよぶ)により、これを不在地主たる原告の所有する小作地たる農地として買収計画を定め、これを不服とする原告が昭和二十三年五月五日異議の申立をしたのに対し、同月二十五日その異議を却下する旨の決定をし、ついで大阪府農地委員会は右買収計画の承認をし大阪府知事は右買収計画に基いて買収令書を原告に交付した。

しかし、右の買収計画は、まず、つぎの点において違法である。

一、本件土地は農地ではなく、また小作地ではない。

本件土地を含む附近一帯の土地は、買収計画の七、八年前からすでに区画整理を完了して工場住宅地帯となり、工場住宅が点在しており、ことに本件土地は戦時中、大阪造兵廠に借上げられて軍用に供され、全面的に深く堀下げられたため、当時から水深六尺以上の貯水池と化し、土地台張面の地目は田となつているが、現況は池であつて農地ではない。かりに農地とみるとしても、自作法第五条第四号または第五号による指定をして、買収から除外すべき土地である。

二、本件土地は原告および訴外杵谷孝次郎、小田久次郎の三名の共有で、原告単独の所有地ではない。買収計画はこれを原告単独の所有としている。

三、本件土地の附近一帯の土地は工場または住宅用地として需要が多くその客観的価値は他の農地の比ではない。時価は五万円以上である。しかるに本件土地の買収の対価をその賃貸価格のわずか十一倍と定めたのは右の客観的価値を無視したものである。

つぎに、右の買収計画、その公告、これに対する原告の異議申立を却下した決定および大阪府農地委員会のなした右買収計画の承認は、さらに、つぎの点において違法である。

一、買収計画 (一)本件買収計画は被告委員会作成名義の買収計画書なる文書をもつて表示されている。しかし被告委員会に備付けてある議事録によれば、右買収計画書の内容と一致する決議のあつたことが明認し難く、また、決議のあつた買収計画事項の全部が右買収計画書に表明されていない。すなわち、右買収計画書は被告委員会の決議を表明する法定の買収計画と認めるに足りない。

(二)買収計画書は委員会という合議体の行政行為的意思を表示する文書であるから買収計画書自体に、委員会の特定具体的決議に基いた旨の記載とその決議に関与した各委員の署名のあることをその有効条件とするが、本件買収計画書には右の記載および署名がない。

二、公告 農地委員会はその決議をもつて買収計画の公告という行政処分をしなければならない。その公告は、買収計画という農地委員会の単独行為を相手方に告知する意思伝達の法律行為である。公告によつて買収計画に対外的効力を生じ、適法な公告があつてはじめて、政府と買収利害関係人との間に買収手続という公法上の法律関係が成立するものである。

ところで(一)本件買収計画の公告は被告委員会の決議に基いていない。

(二)また被告委員会の公告ではなくて、その会長の単独行為であり、その専断に出たものである。

(三)公告の内容は買収計画の告知公表たるを要するにかかわらず現実になされた公告には単にその縦覧期間とその場所とを表示するにとどまる。かかる内容の公告は自作法第六条に定める公告としての要件を欠くものである。

三、異議却下決定 (一)原告に送致された異議却下決定には、被告委員会がこれと一致する決議をした証跡がない。また被告委員会の議事録に、これを証明するに足る記載がない。

(二)その決定は会長単独の行為または決定の通知とは認められるが、被告委員会の審判書とみとむべき外形を備えていない。

四、承認 買収計画につき、市町村農地委員会は、自作法第八条に従つて都道府県農地委員会にその承認を申請し、都道府県農地委員会はその買収計画に関する法律上事実上の事務処理について違法または不当の点がないか厳密に審査しその承認を行うものである。すなわち、買収計画の承認は承認申請に基き買収計画に関し検認許容を行う行政上の認許で、明らかに行政上の法律行為的意思表示であり、行政処分たる法律上の性格を有することは疑いの余地がない。買収計画はその公告によつて対外的効力を生じ、その存在を外部に対抗し得るにいたるが、さらにこれに対する適法有効な承認があつてはじめて、その効力が完成し、ここに確定力を生じ政府の内外に対し執行力が生ずるものである。反言すれば、買収計画という行政処分は、適法な承認のあつた時に法律上の成立をみるもので、このときに買収計画は確定的客観的に存在をみるものである。ところで、(一)本件買収計画に対しては適法な承認がない。大阪府農地委員会は、今次の農地改革における各買収計画に対し、法定の承認決議をした外形があるが、あるいは市町村農地委員会の適法な申請に基かないものがあり、あるいは承認の決議が訴願に対する裁決の効力発生前になされたものがあつて、概して承認の決議自体無効である。このことは本件買収計画に対する承認についても同様である。

(二)本件の買収計画に対して承認の決議があつたが、この決議に一致する大阪府農地委員会の承認書が同委員会によつて作成されていない。また被告委員会に送達告知されていない。すなわち買収計画に対する適法な承認の現出告知を欠く。すなわち承認なる行政処分は存在しない。かりに、右の決議をもつて承認があつたものとするも、かかる決議は法定の承認たる効力がない。

従つて、本件買収計画、その公告、これに対する原告の異議を却下した決定、買収計画の承認はすべて無効であり、またその買収計画に基く政府の買収も無効であるほか、右買収計画以後これに基因してなされた行政処分はすべて無効といわねばならない。」

また被告の主張に対しつぎの通り述べた。

「本件の買収計画が取消され、また買収令書取消の通知書が原告に到達したことはみとめる。しかし、その取消は不適法である。」

被告等訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする」との判決をもとめ、答弁としてつぎの通り述べた。

「被告委員会が、本件土地について原告主張の通り買収計画を定め、原告が、昭和二十三年五月五日異議の申立をし、被告委員会が同月二十五日その異議の申立を却下する決定をしたことはみとめる。しかし、農地が自作法第五条第四号または第五号によつて買収から除外されるためには、右各号による指定がなければならないが、本件土地についてはその指定はないのであるから、これについて買収計画を定めたのについてはその点の違法はない。また、買収計画に定めた農地の対価については、その額に不服があれば自作法第十四条により訴をおこせば足るのであつて、その点で買収計画の効力を争うことはできない。のみならず本件土地についてはその対価の額は賃貸価格の十一倍としたが、附近の農地に比較して定めた正当な額である。

しかし、本件土地の現況が池であつて、農地でないことをみとめて、大阪府知事は右買収計画にもとずいて原告に交付した買収令書を取消し、被告委員会は昭和二十四年七月二十五日付で右買収計画の取消をした。従つて現在では、原告の本訴請求はこれを維持する利益がない。なお、本件土地については自作法にもとずく売渡手続はしていない。」と述べた(立証省略)。

三、理  由

一、自作法による農地の買収は、通常の場合、市町村農地委員会、都道府県農地委員会、都道府県知事の三つの行政庁によつてなされる一連の行為すなわち手続によつて行われるもので、まず市町村農地委員会が買収計画を定め、その旨を公告するとともに買収計画書を作成して縦覧に供し、所有者から異議の申立があるとこれに対する決定をし、その決定に対し訴願があると都道府県農地委員会はこれに対する裁決をし、その後市町村農地委員会からの申請によつて買収計画の承認をし、承認のあつた買収計画にもとずいて都道府県知事は買収令書を所有者に交付し、場合によつてはこれにかえてその内容を公告する。その買収令書の交付またはそれにかわる公告(以下単に買収令書の交付という)があると、その農地について、国が所有権を取得し従来の所有者の所有権が消滅する等の農地買収の法律効果が発生することになるわけである。買収令書の交付があると右の法律効果が発生し、その交付のないうちはその法律効果は発生しない。そこで右の法律効果は買収令書の交付によつて発生するといつてもよい。(それで、以下買収令書の交付を適当に買収処分という。)

ところで、右の法律効果が発生するためには、右の一連の行為がすべて法律のこれについての規定に適合して、すなわち適法になされていなければならない。いずれかの行為が違法であれば買収処分があつても右の法律効果が発生しない。法律効果が発生しないという意味で買収処分の違法ということをいうならば、それまでの各行為の違法はすべて買収処分を違法にする。すなわち、前の行為の違法をすべて買収処分が承継するということができるが、買収令書の交付だけで独立して法律効果を発生させるものでないことの表現である。

さて、通常の民事訴訟において訴訟の目的が直接に現在の権利または法律関係の存否でなければならないのに対して、行政処分の取消をもとめまたはその無効の確定をもとめる訴訟においては行政処分の効力の存否が訴訟の目的となつているのであるが、しかし、実質的には結局その行政処分によつて発生消滅または変動する一定の権利または法律関係の確定がもとめられているものと考えてよい。この点からいつて、訴訟の目的たりうる行政処分は、その効力の確定が、一定の権利または法律関係を直接確定するに適したものでなければならない。

そこで、これを自作法による農地買収の手続についてみると、その手続は農地の所有権の得喪とこれに附随した一連の権利の得喪という一定の法律効果に向けられた手続であつて、その手続の効力を争うことは結局実質的には右の一定の法律効果を争うことにほかならない。これを訴をもつて争う場合、右の手続のうちのどの行為を行政処分としてとらえて、その効力について争うのが適当したがつて適法かといえば、買収令書の交付がこれに当ることは前にのべたところによつて明らかである。その効力が否定されることは、すなわち全手続による法律効果が否定されることであるし、そのためには手続上の各行為の適否はすべて判断を受けることになること前にのべたり通りである。

買収処分のある前に、その前段階の各行為をいちいち訴訟の目的とすることは、その手続による法律効果がまだ発生する段階にいたつていないのに、先走つて小きざみに、法律効果としてこれから発生すると考えられる権利の変動を争うことになり、訴訟の実質的な目的である権利ないし法律関係がまだ可能の状態にあつて現実化していないことからいつても、また、それらの各行為の効力が(たとえば有効と)確定されても、直ちに買収の法律効果が(たとえば有効と)確定されるものでもないことから考えても、前に民事訴訟の原則と対比して述べたところからいつて、一般に適当でなく、いまだ訴の目的とするに熟していないものといわねばならない。買収処分のあつた後は、買収処分の効力を争えば足り、各行為の効力を独立して確定する必要がないし、確定したところで、直ちに買収の効果を確定するに足りないこと右にのべた通りである。

ただ、買収計画は右の点で例外的な地位をもつ。上記の民事訴訟の原則は、裁判制度が社会の法律生活の必要に対し一定の限度で利用に応ずるその対応の仕方を形式化したもので、裁判制度を利用するに足る必要の程度を限定した形式である。その形式からもれても、必要としてはその形式に適合した場合と異らない場合もでてくるわけであつて、法律は各個にそれらをひろいあげて訴の目的とすることができる規定をおいてこれに対処しているが(たとえば文書真否確認の訴訟)法律の特別の規定のない場合にも理論的に測定して訴の目的とする必要のある場合にこれをみとめることが制度の趣旨に合うものといわねばならない。これを買収計画についていうと、農地買収手続において買収計画がその中核をなし、その後の行為はその実現の過程である点から、自作法はとくにこれに対してその段階で異議の申立および訴願をすることをみとめており(かえつて買収処分に対しては異議の申立および訴願をみとめていない)、買収計画はその公告によつて、農地の権利者に現状維持の義務を生じさせるという附随的ではあるが独立した法律効果をもつている点を別にしても、買収手続の基本をなすところから考えて独立して訴の目的とすることをゆるすのが、法の趣旨に合致するものということができる。そして、買収計画に対する異議の申立に対する決定および訴願に対する裁決は、買収手続におけるいわば副次的な過程で、買収計画そのものに附随した行政的救済の手続である。したがつて買収計画が訴の目的とすることができる以上、いわばその延長として、これらの処分も訴の目的とすることができるといわねばならない。

二、原告が本訴で請求の趣旨として、無効の宣言なり確認なりをもとめているものを数えると、本件土地についての「買収計画」と、「買収計画に基く政府の買収」と、買収計画の「公告」と、「買収計画に対する異議の申立を却下した決定」と、その買収計画に対する「承認」と、「買収計画以後これに基因する各行政処分」とである。

そのうち、訴の目的としては「買収計画」と「異議の申立を却下した決定」とが一応適法なこと、「公告」と「承認」とが不適法なことは上にのべたところで明らかである。

「買収計画に基く政府の買収」というのは必ずしも明かでない。大阪府知事による買収令書の交付をさすのであれば、訴の目的としては一応適法であるから、ここではその意味に解して判断する。(そのほかには、行政処分として、政府の買収という処分を考えることができない。)

「買収計画以後これに基因する各行政処分」というのは、無効を主張する処分が特定していないので、この点の請求は不適法というほかはない。法律上考え得られる将来の行政処分の無効を主張するというのであれば、それは買収計画なり買収処分が無効なことを言葉をかえて言つたまでのことで、特に判決の主文で、そういう表現をしなければならない必要はみあたらない。

三、本件土地について、被告委員会が自作法による農地買収計画を定め、原告がこれに対して昭和二十三年五月五日異議の申立をし、被告委員会が同月二十五日その異議の申立を却下する決定をしたことは当事者間に争がなく、また、その後大阪府農地委員会が右の買収計画を承認し、大阪府知事が右買収計画にもとずいて原告に買収令書を交付したことは被告等の明らかに争わないところである。

そして被告委員会がその後、本件土地の現況が池であつて農地でなく右の買収計画がその点で違法であることをみとめてこれを取消し、大阪府知事も同様の理由で原告に対しさきに交付した買収令書を取消す旨の通知書を送達したことは当事者間に争がない。なお、成立に争のない甲第四号証の一、二第六号証、乙第一号証の一、二第二、第四号証によれば、被告委員会は右買収計画の取消について大阪府農地委員会にその取消の承認をもとめその承認および買収計画の承認の取消を得て右の買収計画を取消し、昭和二十六年二月二十七日附の通知書でその旨原告に通知し大阪府知事は昭和二十七年三月十四日附で買収令書を取消す旨を原告に通知したことがみとめられる。そうすると、これによつて本件土地に対する買収処分も買収計画もすでにすべて取消されていることが明らかであつて、原告は右買収令書の取消を不適法であると主張するが、買収処分の取消は、買収令書を取消すという文言を用いようと、また、かりに買収令書を無効とするという文言を用いようと、買収処分によつて生ずる買収の効果をなくする処分をするものであることが表示されておれば十分であるし、その他に右の取消を不適法と考えねばならない理由は見当らない。また買収処分がすでに行われた後、それが取消されてもいないのに、市町村農地委員会が、買収計画を取消すことができるかどうかは疑問であるが、買収処分も買収計画もそれぞれすでに取消された場合、その取消の前後は結局その取消の効力に影響がないといつてよいものと考える。さらに、行政処分を取消す処分は通常その取消される処分と同じ方法で行われるのが適当であると考えるが、法律で特に取消の方式を定めていないかぎり、その取消のためにその場合適当と考えられる形で行われておれば、必ずしも取消される処分と同一の方式でなされなくても違法とはならない。だから、右の買収計画の取消が、本件土地の所有者たる原告に対する通知によつてなされたことは取消処分として違法だというほどのことはなく、有効と解して差支ないものと思う。

そうすると本件土地についての買収処分、買収計画が、取消によつてすでにはじめから効力がなかつたことになつた現在、その取消の結果と同じ法律状態の確定を目的とする本訴は結局もはやこれを維持して判決をもとめる利益がなくなつたものといわねばならない。異議の申立を却下した決定についても、それが買収計画及び買収処分の効力をはなれて意味のないものである以上同様である。

そうすると、この意味で本訴のうち、買収計画、買収処分、および買収計画に対する異議の申立を却下した決定の無効の確定をもとめる部分も、現在では不適法として却下するほかはないといわねばならない。

以上の理由によつて原告の訴をすべて却下することとした。

訴訟費用の負担については、本訴の主要の部分が、被告委員会および被告国の機関たる大阪府知事の、原告の本訴における主張をみとめた取消処分によつて不適法となり却下されることになつたことから考えて、民事訴訟法第九十条によりすべて被告等の負担とするのが相当である。

よつて主文の通り判決する。

(裁判官 山下朝一 鈴木敏夫 萩原寿雄)

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